北澤美術館での展示が決まったとき、せっかくの機会だから、何か新しい作品を作りたいと思いました。

その頃の私は、体調が少しずつ落ち着きはじめ、しばらく離れていた制作にも、そろそろ戻れたらと思っていた時期でした。

何を作ろうかと考えたとき、心に浮かんだのが蝶々でした。諏訪湖のほとりに咲く野の花。その上を、ひらひらと軽やかに舞う蝶々。

そんな景色を思いながら、私自身もまた少しずつ動き出せますように、そんな気持ちを重ねて作り始めました。

まずは蝶のかたちをワックスから作り、シルバーの小さなベースへ。そこへ一粒ずつ、ガラスを入れていきます。

同じ蝶のかたちでも、使う色や花の組み合わせによって、一匹一匹、まったく違う表情になりました。

赤い花をまとった蝶。青や紫を忍ばせた蝶。明るいオレンジや黄色の蝶。作っているうちに少しずつ数が増え、気がつけば9匹。

並べて眺めたとき、まず思ったのは、「可愛いな」という、とても素直な気持ちでした。

そしてそのあとに、「ここまで作れるようになったんだな」と思いました。

これまで私は、作品を手にしてくださった方から、「元気をもらいました」「またおしゃれをして出かけようと思いました」そんなお手紙をいただくことがありました。

作品というものが、ほんの少しでも誰かの心を明るくすることがあるのだと、そのたびに教えていただきました。

けれど今回は、少し違いました。自分で作った作品を眺めながら、私自身が元気をもらっていたのです。

9匹の蝶々が並ぶ姿は、私にとって新しい作品であると同時に、もう一度、制作へ戻ってきたことを感じさせてくれるものになりました。

この作品の名前は、

「再びの羽音」

大きく羽ばたくのではなく、まだ小さく、かすかな羽音。けれど確かに、もう一度動き始めた音です。

諏訪でこの蝶々たちをご覧いただいた方にも、それぞれの羽に咲く小さな花を楽しんでいただけたら嬉しく思います。

今日も、小さな一歩。